解雇とは何か?法的規制は?
「解雇」とは、使用者の一方的な意思表示により労働契約(雇用契約)を終了させることをいいます。
したがって従業員からの意思表示による自己都合退職や、使用者・従業員双方の意思表示の合致による合意解約、また定年退職は解雇とは言いません。
解雇には、懲戒解雇と普通解雇があります。また個別解雇(従業員個々の理由によるもの)と、
整理解雇(会社の経営上の理由によるもの)という分け方もあります。
法的規制としては以下のとおりです。
なお、平成16年1月1日より労働基準法が改正され、
「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」
と解雇法理の原則が明文化されました。
解雇理由が客観的で合理的であることは使用者側に証明する義務があります。
【労働基準法による規制】
労働者を解雇する場合には、少なくても30日前に解雇予告をするか、
若しくは30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければその解雇は無効とされます。
労働者が業務上の傷病のために休業する期間とその後の30日間、
また女性労働者の産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)と産後8週間及びその後の30日間は解雇することはできません。
労働者の国籍、信条、社会的身分または性別を理由とした解雇は禁止されます。
労働者が労働基準法違反の事実を労働基準監督署長や行政官庁に申告したことを理由とする解雇も許されません。
【育児・介護休業法による規制】
労働者が育児休業・介護休業を申し出たこと、あるいは育児休業・介護休業をしたことを理由とする解雇は禁止されます。
【男女雇用機会均等法による規制】
女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産したこと、また産前産後の休業をしたことを理由として解雇することはできません。
【労働組合法による規制】
労働者が労働組合の組合員であること、労働組合を結成しようとしたこと、また正当な組合活動をしたことを理由とする解雇は禁止されます。
就業規則に解雇事由を記載する必要があります
平成16年1月1日から、就業規則への「解雇の事由」の記載が義務づけられました。
したがって現在、就業規則に「解雇の事由」が記載されていない場合は、
「解雇の事由」を記載し、所轄の労働基準監督署に届ける必要があります。
就業規則を作成していない会社の場合はどうでしょうか。
民法の規定により雇用契約を解除するか、本来なら懲戒処分に該当する場合でも解雇予告手当を支払って普通解雇として解雇するなどの方法がありますが、就業規則に解雇事由がきちんと記載してある場合に比べ、使用者と労働者の言い分が噛み合わず、大きなトラブルとなることもあります。
就業規則の作成義務のない会社の場合も、無用のトラブルを防ぐという面から見ても、就業規則を作成しておいた方がよいでしょう。
解雇する前に注意しておくこと
前項でも述べたとおり、就業規則への「解雇の事由」の記載が義務づけられています。
したがって、従業員を解雇するには、就業規則の解雇事由に基づき実施することになります。
従業員を解雇するということは、会社にとっては最後の手段としなければなりません。
いきなり解雇するのではなく、段階を踏みながら行うことが望ましいです。
さらに、従業員に対して解雇を通告する際は、口頭だけでなく解雇通知書などの書面により通告するのがよいでしょう。
労働基準監督署などに持ち込まれる解雇の案件は、
事業主の解雇の意思表示が曖昧であったため、トラブルとなったケースが多くなっています。
事業主が、従業員を鼓舞するために「明日から会社に出てくるな!」と言ってみたり、
権限のない上司が「お前なんか辞めてしまえ!」などと言うことはよくあることです。
それを真に受けた従業員が解雇されたと思い、会社に出勤しなくなり、労働基準監督署などに苦情として持ち込まれることになります。
また、中小企業などでは、事業主が勢いで「お前クビだ!」といってしまうこともあるかと思いますが、これはもっともやってはいけない事です。
トラブルとなり煩わしい時間を費やすことを考えれば、最低限、書面にて解雇の通知は行っておいた方がよいと考えます。
さらに、労働者を解雇する場合は、30日前に解雇する旨の予告をするか、
即時解雇する場合は平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払わなければなりませんが、
実務的には解雇予告手当を支払い即時解雇するよりも、30日前に解雇通知書により解雇の予告を行う方が現実的でしょう。
解雇予告を受けた従業員は、翌日から出社してこなくなることも多いですが、その間は欠勤扱いとして賃金を控除します。
解雇予告の除外認定って?
労働者を解雇する場合には、先にも述べたように、少なくても30日前に解雇予告をするか、
若しくは30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。
しかし、「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」
または「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は
所轄労働基準監督署長の認定を受けることで、解雇予告や解雇予告手当の必要がなくなります。
この認定のことを「解雇予告除外認定」といいます。
「労働者の責めに帰すべき事由」とは以下のとおりです。
上記の場合は、労基署長の認定を受ければ原則として解雇予告や解雇予告手当の必要もなく、即時解雇できます。
労働基準監督署はこの除外認定について慎重な場合が多いです。
どうしても即時解雇したい場合は、解雇予告手当を支払って解雇するほうが良いかもしれません。
懲戒解雇の場合にも除外認定は必要?
前述の解雇予告除外認定基準は例示的なものとされていますので、
就業規則等で定める懲戒解雇事由に基づいて懲戒解雇を行う場合はもちろん、
除外認定を受ける場合にも上記のケース以外でも可能であり、実際の認定に際しては個々の案件ごとに総合的かつ実質的に判断されることになります。
ところで、これらの解雇予告除外認定基準は、懲戒解雇処分ができるかできないかという基準ではなく、
解雇手続きを経ずに即時解雇ができるかどうかの基準です。
したがって、除外認定が得られなくても、就業規則に定める懲戒解雇の基準に合致する服務規律違反があるときは、
30日前に予告するかまたは予告手当を支払えば、懲戒解雇することができます。
試用期間中は自由に解雇できるの?
従業員を採用するに当たって試用期間を設けている会社は多いと思います。
この試用期間の間に、その従業員の能力・適正を見極めて、本採用に移行するか否か、
または本配属先を決定したりするわけですが、試用期間内であればいつでも解雇できる、というような誤った認識を持っている事業主も多いようです。
試用期間中であろうとも労働基準法によって保護されますから、解雇するに当たっては法定の手順を踏む必要があります。
試用期間終了後に「本採用拒否」という場合でも、解雇に当たりますので同様の扱いとなります。
ただし入社後14日未満の者については、法定の解雇予告の手続きが免除になります。
これが労働基準法に定めのある『試みの試用期間』であり、この期間内なら即時解雇ができることになります。
この法定の『試みの試用期間』の取り扱いと、
会社ごとに就業規則で規定している『試用期間』とを混同しないようにしましょう。
14日未満で解雇する場合以外のケースでは本採用拒否になる可能性を見通して、事前に準備をしておく必要があります。
まず入社前に本採用に移行するために必要となる能力、または期間内に積むべき実績などを示し具体的な目標を掲げてやる事、
また能力不足と判断された場合は本採用が認められない場合もある事を十分に説明しておくこと。
これらは書面によることが適当でしょう。
また、本採用拒否となる理由をできるだけ具体的な記録としてとっておくことが必要でしょう。
全社員を一度解雇し、希望者だけ再雇用したい
業績が悪化しているため、いったん全従業員を解雇し、
希望者のみ新たに以前より安い給料で再雇用しようという考えは認められるのでしょうか。
会社は単に「業績悪化」という理由だけで全社員を解雇することはできません。
まして、いったん解雇したのち再雇用するというのでは、労働条件を引き下げることだけを目的としたものと考えられ、
到底、合理的な理由があるとは認められませんので、不当な解雇として無効です。
一般に「解雇」は使用者の勝手な理由によって行うことは許されず、
合理的な理由のない解雇は、解雇権の濫用として無効とされます。
実際、終身雇用制をとってきた日本の企業の多くでは、経営危機に陥ったからといって、
ただちに(整理)解雇という方法をとらず、希望退職や退職勧奨などの雇用調整策を行った後に、
最後の手段として(整理)解雇が行われています。
この場合、全員解雇後に安い給料で再雇用するというのでは、解雇が目的ではなく、
賃金引き下げだけが目的とみなされますので、何ら合理性を見ることもできず、
典型的な不当解雇のパターンといわざるを得ません。
したがって、ご質問のように業績悪化が激しい場合には、前述の雇用調整策を最大限に講じたのち、
どうしても必要な場合には、労働組合(労働組合がないときは、従業員全員)とよく話し合って打開策を見つけていくほかないでしょう。
その際、結果として人員縮小と賃金引き下げの両方の方策が受け入れられたときに、このようになることもありえます。
他社からスカウトしたが、期待した能力がない
採用活動を行う際に、高いレベルのポストを用意し、
賃金についてもポストに見合った処遇を約束するなどして高い専門的知識や技術を持つ人材、
または経験や管理能力を買って採用当初から部長職などとして人材をスカウトして迎え入れる場合があります。
こういった場合、会社は当然相応の成果を上げることを期待しているわけですが、これが期待はずれであった場合に、
他の一般職同様に解雇するのに高い壁があったのでは、給与の高い不要な人材を社内に抱え込むことになってしまいます。
そんなことにならないように、これらの人材に会社が「期待している能力・成果」を事前に話し合い、労働契約書に盛り込み、
約束事を取り決めておくことで、これに反した場合は債務不履行であるとして、解雇できることになります。
具体的には
などの点について取り決めておきます。
ただし、決めた目標を達成できなかったからと言っても、天災地変や経済状況の大きな変化など
当人にはどうにも対処のしようのない外的要因があった場合は話が別ですし、
そういったことがなくとも目標の7〜8割を達成しているのであれば、即時解雇は難しいかもしれません。
整理解雇をしたい
「整理解雇」とは、企業の経営上の必要に基づいて行われる余剰人員の整理をいいます。
整理解雇を行うべく根拠は一般に就業規則を前提とします。
就業規則の解雇規定中の
「事業の縮小その他事業の運営上やむを得ない事情により、従業員の減員等が必要になったとき」
などがそれです。
整理解雇を行うには、4つの要素が必要といわれています。
これが「整理解雇の4要素」といわれるもので、裁判所の判断として概ね確立されているものです。
整理解雇の4要素は、以下の4つとなります。
従来はこのどれか一つ欠けても整理解雇は無効という判例が多数を占めていました。
ところが最近になって、
「4要素を全て満たさなければ有効とならないということではなく、整理解雇が有効かどうかは事案ごとの具体的な事情を総合的に考慮し判断すべきである」
という判例が出てくるなど、裁判所の考え方も次第に変わってきています。
【整理解雇の4要素】
具体的には、黒字経営であった、新規の事業計画に着手した、株式の高額配当をした、新規採用を行ったなどの場合は一般に人員削減の必要性はないと見られます。
ただし、正社員を解雇し、パートタイマーやアルバイトを新たに採用したような場合は、「事業コストを削減し、経営を合理化するための措置の一つ」などとして、人員削減の必要性に抵触しないという判例もあります。
しかし、これとて整理解雇としての正規の手続を行った上で認められると解釈されますので、整理解雇でない通常の解雇に、安易にこの方法を使うと解雇権の濫用とされる場合がありますので、注意が必要です。
「人員削減の必要性」については、明らかに矛盾する措置が採られるなどがない限り、概ね否定されることは稀ではないかといわれています。
いきなり整理解雇するのではなく整理解雇を回避する努力をしたかということです。
具体的には、経費の節減、新規採用の停止、時間外労働や労働時間の短縮、従業員の配転・出向、役員報酬の削減、管理者の給与・手当の削減、賞与・昇給の停止、一時帰休や希望退職者の募集などが考えられます。
また以前は、正社員の解雇を行う前にパートやアルバイトなどの雇止めや派遣社員の削減等を行わなければならない等の考えが主流でしたが、最近ではこれらを行わなくても解雇回避努力を怠ったと言われることは少なくなりつつあります。
しかし、解雇回避努力はしなくてもよいという訳ではありませんし、ケースバイケースの場合もありますので、解雇回避を具体的に検討し実施することが必要です。
整理解雇対象者の選定には公正さと合理的であることが求められます。
一般的な選定基準としては、
・パートタイマー・嘱託社員・派遣社員などが基準として考えられます。
ただし、女性であること、労働組合員であること、身障者であることなどを基準とした場合は解雇権の濫用とされますので、注意してください。
会社は整理解雇についての内容を従業員に十分に説明し、労働組合があれば労働組合との協議を行ったかということです。
会社の経営状況や収益改善策、人員整理の必要性、整理解雇に至った経緯、
解雇対象者の選定基準、時期や規模などを誠意を持って協議・説明する必要があります。
また、もし整理解雇が早期に分っていれば、できるだけ早い時期に協議・説明を行う義務があるとされています。