奇抜な格好をやめさせたい
従業員の服装や髪型などが限度を超えて業務に支障をきたすと判断される場合は、
業務命令として改善を促すことができますし、この業務命令に応じなければ、就業規則に則った懲戒処分も可能です。
しかし、会社としてどの程度までを許容して行くのかについては、本来『一定の基準』が必要となりますが、
服のデザイン、髪の形や色、ひげの生やし方など一概に文章で規定することは大変困難なものです。
しかも、従業員の職種などによってどの程度が社会通念に照らし合理的であるかを判断しながら規定してゆかなければなりません。
写真などを活用し、具体的に見せるのが良いかもしれません。
ただし、明らかに不潔であったり、身なりを理由に顧客からたびたび苦情を訴えられるなどの状況があれば、
顧客や同僚を含む周囲に不快感を与えていることは明白ですから、この事実に基づいての改善を業務命令として行うことができます。
この場合、改善の勧告、注意は業務時間中に会社内で、
就業規則に違反した者への警告であるとの形式を保ちつつ、毅然と行うことが重要です。
初回の口頭での注意によって改善されない場合は、文書によって警告を発します。
この文書による警告は、その後も態度が改まらず、解雇を含むもっと重い懲戒処分を行う際にも、その処分の必要性、
妥当性を客観的に示す資料になりますので、この意味でも文書による警告は有効です。
無断欠勤を続ける社員がいる
無断欠勤、遅刻、早退等の行為は労働契約上の債務の不履行になり、ひどくなれば懲戒解雇事由に該当します。
「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じないときは解雇予告なしに即時解雇することができる」とされていますので、
出勤の督促にも応じなかったり、または所在が不明等の場合は、2週間経過後即時解雇しても問題はありません。
しかし、できればいきなり解雇という手段をとるのではなく、これらの行為に対してまず注意を促し、
その後けん責、戒告等で改善の機会を与え、それでも改まらないときに解雇という手続きを取ったほうが良いでしょう。
また懲戒解雇に対する裁判例などみても懲戒解雇の認定はかなり厳しいため、
事情によっては普通解雇に留めおくことも後々の大トラブルを避けることにつながります。
実務上は、これらの無断欠勤、遅刻、早退等の事実関係を具体的に記録しておきます。
また会社としても、日頃からこれらの行為に対して規律ある厳しい態度をとることが大切です。
無断欠勤については、就業規則に「正当な理由なく○日以上無断欠勤を行ったとき…」等の定めをし、
さらに「無許可欠勤及び無届欠勤は無断欠勤とする」という文言を加え、「欠勤は会社所定の様式による書面で事前に、
やむを得ないときは事後速やかに上司に提出する」としておくのが良いでしょう。
社内外で業務上トラブルが多い社員の対応
得意先とのトラブルが多かったり、また、上司や同僚に対しても暴言をはいたりするようなことがあったり、
報告書や領収書に不正があったり、交通違反で警察から出頭要請を受けたり、問題の多い社員の対応については非常に難しいものです。
注意しても改まらず、服務規律違反行為が度重なるようであれば、懲戒解雇処分としてもよいでしょう。
会社の就業規則の服務規律や懲戒事由の規定に照らして処分してください。
懲戒処分の種類には、けん責、減給、降職・降格、出勤停止、懲戒解雇などがあります。
実際の服務規律違反に対しては、その程度に応じた処分をすることになりますが、
仮にその一つひとつが必ずしも重大な規律違反でない場合にも、その「非行」が繰り返し行われ、
注意しても改められないときは、非行全体として評価し、懲戒解雇処分をしてもよいと解されています。
業務外でトラブルが発生した社員の対応
たとえばある社員が勤務時間外に飲酒運転し警察に捕まってしましました、などの場合、何らかの懲戒処分に付することはできるでしょうか。
業務外のトラブルについては、会社の信用を失墜させる行為や犯罪行為があった場合などを除き、原則として懲戒処分することはできません。
原則的には、従業員の業務外の非行に対して、会社が懲戒処分することはできません。
なぜなら、懲戒は、労働者と使用者(会社)との労働契約に基づき、当該労働契約に違反したときにのみ行うことができるものだからです。
労働者と使用者との間において締結される労働契約の効力は、労働者が使用者に対して行う労務の提供そのもの、
あるいは、業務に関連する行為に対してのみ及ぶものであり、業務外の行為に対しては及びません。
例えば、社員がギャンブルに凝り過ぎたあまり妻子に逃げられたり、不倫行為等による離婚騒動など、
社会通念(道徳)上好ましくない行為があったとしても、それらに対して、ただちに会社が懲罰を課すことはできません。
このような場合には口頭注意で十分反省を促す程度にしておくべきでしょう。
しかし、業務外での行為でも、社会的に影響を与えるような行為であって、
会社の信用を失墜させたり、名誉を著しく汚すような行為を行った場合には問題は違ってきます。
この場合には、その非行行為は会社に何らかの損害を与えたことになりますし、損害を被った会社としては、その程度に応じて懲罰を課すことができます。
そのほか、社員が刑法上の犯罪を犯したときなどには、それが業務外の行為であっても、
罪状によっては懲戒解雇などの厳しい処分に付することもできます。
退社後にアルバイトをしている社員がいる
労働契約の締結により労働者に生ずる労務提供の義務は、あくまでも決められた労働時間内に限って求められるものであり、
労働時間を越えたプライベートな時間帯についてまで使用者がその行動を支配し、干渉することはできない、というのが原則的な考え方です。
ただ、この労働時間外のすごし方によって、適正なあるべき労務の提供ができず、
業務遂行に支障をきたすようであれば、就業規則の定めにしたがって処分することができます。
現状、ほとんどの会社の就業規則には、会社の承諾のない二重就労を禁止する規定が設けられていますが、このような規定があっても直ちに解雇できる訳ではありません。
まずその従業員の業務上のミスや居眠りなどの就業状況に問題が生じていないか、欠勤や遅刻が増えていないか、などを確認し書面に記録してゆきます。
もちろんその都度注意を促しながら、一定程度これらの記録が蓄積された時点で改善を促し、
それでも問題が続くのであれば副業をやめるように勧告します。
さらに改善が見られず副業も続けているようであれば、就業規則に則って段階的に減給処分、
出勤停止処分などを経て最終的には懲戒解雇処分を行う事になります。
協調性に欠ける社員がいる
従業員の採用の際には、過去の経歴や能力などと同時に、人間性や協調性などにも目を向けて、
採用可否判定の重要な要素として組み入れてゆくべきです。
人間性や協調性の欠落を見抜けず採用してしまうと、特にチームで業務を行う職場においては様々な問題が生じ、
業務遂行に大きな悪影響を及ぼすだけでなく、他の優秀な従業員もどんどん退職してゆく、などという事態も十分考えられます。
このようなことを避けるためには、会社が積極的に関与して状況の改善・打開を図らなければなりません。
就業規則に盛り込む事がもちろん必要ですが、一般に『協調性の欠如』は普通解雇の対象となります。
ただ、その『欠如』の程度を客観的に測り、解雇に相当するものとの判断を下すのは簡単なことではありません。
ですから、当該従業員に関わって日々起こる様々なトラブル事例、発言内容などの問題点を詳細に記録として残してゆき、将来解雇の決断を下した際に正当性を客観的に示す資料とします。
しかし、起こる事例を記録するだけでなく、会社側が問題解決への努力をしてゆくことが必要になります。
具体的には、まず職場の仲間と協力して仕事を進めることの重要性を説き、改善の努力を促すことが必要です。
この段階で自発的努力により現状を打開する可能性を探るための機会と、一定の時間を与えます。
それでも改善が見られなければ、他の職場に異動させて、一定期間をかけて新しい職場で異なった人間関係の下での協調関係を築く可能性を探ります。
ここまで会社側が努力をしても改善されない場合に初めて客観的に『正当な解雇』と判断される可能性が出てきます。
ただ、企業規模の問題から他部署へ異動させることが不可能な中小企業では、事情が大きく違いますから判断のタイミングも自ずと変わってきます。
客観的な解雇の正当性を主張できるか否かの問題と、一人の問題社員が企業に与える悪影響を最小限に抑えるための解雇決断の最良なタイミングは必ずしも一致してきませんから、最終的には問題の現状深刻さと、問題の進捗の先を見通しての経営者の決断が求められることになります。
残業を拒否する社員の対応
残業が必要であることがわかっているはずなのに、色々理由をつけては指示を受け入れずに帰宅しようとする。
こういう従業員の話はよく聞きますが、これを安易に認めてはいないでしょうか。
社員に残業をさせるためには、36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出ること。
そして、就業規則または個別の労働契約に残業を命じることがあることを明示しておくことが必要です。
そのうえで、残業させる業務上の必要がある場合には、社員に残業を命じることができ、社員には残業を行う義務が生じます。
この場合、正当な理由なく残業を拒むことは、業務命令違反となり、懲戒処分の対象になります。
しかし、残業を拒んだだけで解雇ができるかといえば、過去に何度も注意をし、懲戒処分を行い、会社に著しい損害を与えたような場合を除き、解雇を行うのは難しいと思います。
なお、労働時間は原則として1週40時間、1日8時間である以上、社員に正当な理由があれば、残業を拒否することができます。
当然ですが、残業は36協定に記入している以外の事由や、記入している時間以上の残業などをさせることはできません。
ただ、労務管理上、また経営コストの面からも残業は少ないに越したことはありませんから、人員配置や交代制のローテーション、
特に仕事が集中した従業員に対する職場内のフォローアップ体制作りなどに気を配り、効率的に業務を進めて残業の発生を抑えてゆくことはもちろんですが、
月の前後半または季節によって業務の繁閑の差が大きいような場合には『変形労働時間制』をうまく取り入れて、
割増賃金の対象となる法定枠を超える時間外・休日労働を抑制してゆくことも重要な選択肢のひとつです。
必要もないのに残業をする社員の対応
残業を行う場合の会社の手続きを整備しましょう。
会社には、社員の労働時間を管理する義務があり、社員は就業時間内は業務を遂行する義務があります。
残業を行う場合には事前に上司が残業指示書を渡すという手続きを決めるのがよいと思います。
また、残業指示書には残業時間を決めておくのがよいと思います。
残業指示書はあっても、適切に運用されていない会社は多いと思いますが、かってな残業を黙認していると、
人件費がふえるだけでなく、正規の就業時間内の業務もだらだらとなりやすいものです。
上司が、部下の仕事量、能力を把握し、労働時間の適切な管理を行うことが必要だと思います。
当然ですが、残業代を減らすために、上司が恣意的に残業指示書を出さなかったり、
業務に必要な時間以下の残業時間しか認めないということは許されません。