近年、退職代行サービスの利用が増加しており、企業においても適切な対応が求められています。退職代行には民間業者(退職代行会社)、弁護士、合同労組があり、今回は退職代行会社への対応について解説します。
まず、退職代行会社は法的な代理権を持っておらず、従業員の意思を「伝えるだけ」の使者に過ぎません。したがって、企業としては最初に、連絡をしてきた人物の氏名や所属を正確に確認し、従業員本人からの正式な依頼によるものであることを証明する資料の提示を求めることが重要です。資料の提示がない場合には、個人情報を不用意に提供せず、従業員本人に連絡を取って確認を取るようにしましょう。
次に、退職代行会社から退職の意思が伝えられた場合には、従業員本人名義の退職届の提出を依頼するのが良いでしょう。退職届は法律上定められた書式があるわけではないため、会社所定の形式でなくとも、本人の署名があるものであれば受理して差し支えありません。また、退職届が提出されない場合でも、口頭やメールで退職の意思が明確であれば、民法上はその意思表示から2週間後に退職の効力が発生します。そのため、退職届の受理承認書を交付し、退職意思の受領を証拠として残すことが望ましいです。
さらに、業務の引継ぎや貸与物の返却、私物の回収といった実務対応も重要です。退職代行会社を通じて返却物や引取り方法について明確に伝え、事前に訪問日時を調整しておくことでトラブルを防止できます。深夜や休日に無断で訪問されることがないよう、来社時には事前連絡を必須とする旨を伝えることも有効です。
また、退職日までの有給休暇の取得についても配慮が必要です。従業員から全日程の有給休暇取得の申請があった場合、会社としては原則としてこれを認める方向で対応必要があります。ただし、業務上の必要性が高く、引継ぎがどうしても必要な場合には、休日出勤を命じるという選択肢も考えられます。休日に有給休暇を取得することはできないため、合理的な業務命令として出勤を求めることが可能です。この場合、退職代行会社に対しては「休日出勤命令は業務命令であり、退職手続きとは別のものなので、会社が直接連絡を取る」と伝えておくとよいでしょう。
退職に必要な書類(離職票、源泉徴収票など)は、原則として本人宛に直接送付するか、本人の同意がある場合に限り退職代行会社を通じて送ることになります。個人情報保護の観点からも、慎重な対応が求められます。
最後に、退職代行会社とは交渉権限がないため、退職条件の変更や残業代の請求など、法的交渉が必要な場面では対応ができません。こうした交渉が発生した場合には、本人やその代理人である弁護士と直接交渉する必要があります。
近年、いわゆる「スポットワーク」(短時間・単発の就労)が、雇用仲介アプリなどを通じて広く普及し、労働者および企業の双方にとって利便性が高まっています。今回は使用者(事業主)側が気を付けるべき注意点についてまとめておきます。
1.労働契約締結時の注意点
「誰と誰が労働契約を締結するか」を明確にする必要があります。仲介アプリを通じたマッチングであっても、スポットワーカーとあなたの会社との間で直接「雇用契約」が成立します。契約成立の時期については、アプリで求人に応募しマッチングが成立した場合、面接などを経なくても「応募した時点で労使の合意があった」とみなされ、雇用契約が成立するのが一般的です。
労働条件(就業場所、仕事内容、労働時間、賃金、雇用形態など)は、書面(または同等の明示方法)で明示することが必要です。法令どおり、契約内容をあらかじめ明らかにする必要があります。
2.休業・キャンセル時の対応
たとえスポットワークであっても、契約成立後に事業主の都合で「仕事の中止」「勤務日のキャンセル」「早上がり」を命じた場合、これは原則として「使用者の責に帰すべき休業」に該当し、休業手当を支払う必要があります。
特に、直前でのキャンセルは、労働者にとって再び別の就労先を探す余裕がない可能性もあるため、不当な契約解除とみなされるおそれがあります。よって、キャンセルの可能性やその期限をあらかじめ示す場合でも、慎重に対応すべきでしょう。
3.賃金および労働時間の管理
業務に必要な「準備時間」(制服への着替え、業務前準備など)や「後片付け時間」なども、労働時間に含まれる可能性があります。したがって、これらを含めた実労働時間を正しく把握し、適切に賃金を支払う必要があります。
予定された労働時間と実際の労働時間が異なる場合には、予定どおりの賃金は遅滞なく支払い、差異が生じた分は適切に精算しなければなりません。
また、一方的な賃金の減額や不当な扱いは、法令違反となる恐れがあるため、労働条件の変更には労使双方の合意が必要です。
4.労災・安全管理・ハラスメントへの配慮
スポットワーカーであっても、通勤途中や勤務中の事故は原則として労災保険の対象になります。事業主として、安全管理や労災対策を講じる義務があります。
また、職場でのハラスメント対策(パワハラ、セクハラ、マタハラなど)についても、通常の雇用者と同様に配慮しなければなりません。
単発・短時間の「スポットワーク」であっても、契約成立時点で法令(労働基準法など)が適用され、正社員などと同様の権利が認められます。
事業主として、短期・単発の人材を使う際にも、法令を軽視せず、正しい労務管理を行うことで、労働者の保護と会社のリスク回避の両立が求められています。